調査研究

技術の企業化を「正当化」するもの

                          監事 水島 正

 

【死滅しつつあるベンチャー・キャピタルという業界】 

 「自分が開発した優れた技術をビジネスにして、更には株式市場に上場したい」これは企業家の夢であろう。この夢を実現するのに必要な資金を提供するためにベンチャー・キャピタル(VC)が存在している。いま、このVCが業界として死滅しつつある。 

 元々VC専業であったJAFCOや日本アジア投資(JAIC)の業績がここ数年振るわない。(JAIC20095月から事業再生ADRの過程にある)JAFCOは投資の出口としてIPOよりも戦略的な売却に活路を見出している。東京海上火災系の老舗投資会社である東京海上キャピタルは、2011年からVC投資チームを廃止。米系大手投資ファンドであるカーライルは、2008年には、日本でのVC投資から撤退している。 

 業界全体の数字を、日経平均が2000年以降の戻り高値を記録した2006年から2010年までの推移で見てみよう。(出典:財団法人ベンチャーエンタープライズセンター(VEC)

 

2006

2007

2008

2009

2010

日経平均

(年末終値)

17225

15307

8859

10546

10228

IPO件数

188

121

49

19

22

 

2005/4-

2006/3

2006/4-

2007/3

2007/4-

2008/3

2008/4-

2009/3

2009/4-

2010/3

VC投資金額

(億円)

2345

2790

1933

1366

875

同件数(件)

2834

2774

2579

1294

991

ファンド組成金額(億円)

2816

1980

2740

848

474

同件数(件)

70

44

39

23

15

 我が国の株価が低迷している状況を反映し、IPOの件数は著しく減少。VECでは、「IPOを主要な投資回収と収益実現の手段としてきた我が国VCのビジネスモデルは、IPO低迷で出口を失い投資資金回収が困難を極めたことに加え、VC自身の業績悪化により投資は更に落ち込んだ」と分析している。

 これは巷間言われている議論であるが、この議論には回答はなく、このままではだめだと言う結論で終わっている。この状況を打破するにはどうしたらよいのであろうか。我が国の株式市場が本格的に回復してくるまで打つ手はないのであろうか。

 

【不正の三角形モデルを使って】

 内部統制の分野では、「不正」が起きるには三つの要素が必要だと言われている。「動機」と「機会」と「正当化」である。以下の図を参照されたい。

 

普通の人間は、動機と機会だけでは不正を起こさないと言われる。不正をしても、他の人と比べてそんなに悪いことをしているわけではないとか、このくらいいいのだと自分を言い聞かせる行為なしには、不正に踏み出しきれないそうである。

 ベンチャービジネスに踏み出す理由は、この不正のトライアングルのフレームワークで分析可能であろう。自分で事業を興したいと言う旺盛な起業家精神(動機)があっても、

政府やVCからのサポート(機会)がなければ、一歩進まないし、更に、他の成功事例を見聞したり、事業化を親身にサポートし背中を押してくれる行為(正当化)が必要である。

 これまで政府がやってきたのは「機会」の強化策であった。官製ファンドで資本を、制度金融で優遇条件での貸出を提供してきた。今のところこれらの施策の効果は殆ど無い。

 

 むしろ、今、起業家に必要なのは、「正当化」をサポートできる実務経験に富んだ先達の後押しではないか。 技術経営の経験に富み、それを自家薬籠中のものとし、その多様性を次世代に伝授してゆくのが、JCTMの機能である。

JCTMの機能を世の中に知らしめてゆくことが、日本のベンチャービジネス活性化に不可欠だと筆者は確信している。志を同じくする多くの皆さんの参加を期待したい。