テーマ 『Industrie4.0・IoTと技術経営
〜Industrie4.0 産業変革への挑戦〜』
技術と市場との関わり方や情報による事業モデルの変革が静かに進行しています。特にインターネットやその下位ネットワークを起点として流通や物流段階で起きた変化が、ハードウェアの価値向上の過程にも波及し、さらに情報化と国際化の流れの中でサプライチェーンも新興国に拡散したことにより、わが国独自の競争力を毀損するリスクに曝されようとしています。
わが国経済の発展は、ハードの技術を基盤として先進国との競争に勝利してきたことが重要な要因でした。しかし、要素技術の標準化、さらに製造過程のモジュール化は、わが国が得意とする分野の技術基盤を新興国に移転・拡散させ、長い時間をかけて積み上げてきた競争優位性を相対化させています。そうした生産付加価値情勢のマクロ環境変化と情報化(デジタル化)による事業革新の進展は、今日のわが国の競争基盤を根底から覆す危険性を秘めています。
一般に成功モデルの変革は難しいと言われますが、「ハードウェアの生産価値と情報技術(ソフトウェアアーキテクチャー)の融合」がもたらす変化が実現し、その対応が迫られる場合、どのようなハードと情報の融合が起きるのか、いかに対処すれば先取できるのか、慎重に見定める必要があります。
つまり、わが国の競争基盤はハード技術で先行したものの、情報化とその影響で予想される構造的変化に対し、現状のままでは、今までの競争優位性を維持し発揮することは考えられません。主に、米国で起きつつあるIoTインターネットを核とした情報による構造的変化とそれを活用した新たな事業モデルは、看過できない産業革命を引き起こす可能性や危惧すべきドメイン変革を秘めているとも思量できます。
一方、産業構造をサービス産業中心に変化させる意見も声高に叫ばれてはいますが、併存して国際化した市場の需要を取り込むために同期化した生産プロセスがありますので、サービス産業への変化は国内生産が移転した影響の結果でもあると言えます。
我々の経済基盤を国際的に維持・拡大できるか、あるいはこうした国際化への移行過程を管理できるのか、今それが問われています。
“技術立脚型経営研究会”では、この種の産業革命をわが国の問題として取り上げ、ハードと情報との融合で生まれる新たな競争優位性を探る狙いで3年前から“Industrie4.0”に代表される技術と経営・経済の融合的変革を課題に討議を進めてきました。
しかし、技術革新を支える多様な要素技術とそれらを融合した新たな事業モデルとを十分に斟酌し、事業ドメインの再設計に至る課題のすべてを推察し新たな企業モデルを提言するまでには現在は至ってはいません。そうした認識に立って、本題を深堀する研究会を継続する決断をいたしました。
本研究会では、特に ①進展が著しい要素技術への理解を深めること、②産業別で大きく異なる影響を受けること を認識しながら技術革新を利用する側の立場から、対応戦略の検討を中心に、今回のMOT研究会を構成することにしました。かねてより継続している通り「単なる講義ではなく、参加者と我々とが共に新たな変革を見据え、事業的変革の視点を検討する場」と考えています。研究・開発・調達・生産・物流販売・保守そして最終顧客の便益極大化まで、バリューチェーンすべてにわたる広範囲な分野からご参加いただき研究会での討議を期待いたします。
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技術立脚型経営研究会では、第10回(2015年2月)以来Industrie4.0・IoT を4回連続して取り上げ研究会を重ねて参りました。その講義・論議を編集し講義録を作成して産業革命に対し真摯に取り組む企業・業種・事業・機能の姿を紹介しています。
「なぜイノベーションを希求するか」示唆に富む内容であり、研究会のコンテンツを真摯に追及する姿があります。
ご自身は勿論のこと、社内・グループなどで機会をとらえて学習し、技術経営とはなにか、その本質の理解と論議を深めていただければと考えております。
(技術立脚型経営研究会 理事長 許斐 義信)
8月29日(火)
10:00 ~12:30
❐第14回MOT研究会 開講 オリエンテーション
欧州で提起されたインダストリー4.0、米国で提起されたIoT、そして中国の対
応は言うに及ばず、世界の技術先進国は新しい産業革命に向けて経済政策
の関心は高まっている。しかし、過去の産業構造と異なり、要素技術を引き金
とした産業システムの改革が起きており、産業ごとに異質のインパクトを与える
と期待されている。今までのプログラムで扱ってきたテーマの概要について討
議のまえに整理いたしたい。
許斐義信 技術立脚型経営研究会理事長 元慶應義塾大学大学院教授
13:30~17:00
❐Indusrie4.0ドイツの挑戦と戦略
〜デジタルエンタープライズの推進・実績とMindSphereの紹介〜
「第4次産業革命の波は世界中の企業を巻き込んで広がっており日本の製造
業もその影響から逃れることはできない。既に多くの企業が行動を開始し、変
革の先頭に立つべく日々、様々な取り組みを行っている。
シーメンスもドイツ連邦政府が主導するインダストリー4.0実現を担う中核企業
の一社として、様々な先進技術を有効活用するためのデジタルエンタープライ
ズ化を推進してきた。その成果は、自社の工場にとどまらず世界各国の企業に
も広がっている。
本講義では、デジタルプラットフォームの重要性に加え、デジタルとバーチャ
ルの融合が全バリューチェーンにわたる高い生産性実現に有効であることを
再度説明する。さらに、これまでの実績や、日本でも導入を進めているオープ
ンクラウドプラットフォームシステム、MindSphereにより世界各地の生産設備
の情報を有効活用できることなどを紹介し、日本の製造業が取り組むべき課題
を浮き彫りにする。
講師 島田 太郎 様
シーメンス(株)デジタルファクトリー事業部 プロセス&ドライブ
事業本部 専務執行役員 事業本部長
18:00 ~20:00
❐懇親会
8月30日(水)
09:00 ~12:30
❐電動車開発動向と電池技術に関する展望
2018年から強化される米国ZEV法規は、ドイツ勢、韓国勢の自動車各社にも
適用される。同時に2018年から強化される米国ZEV法規は、ドイツ勢、韓国勢
の自動車各社にも適用される。同時に、中国でも類似したNEV規制が導入さ
れること、そして欧州においてはCO2規制の強化が2021年から95g/kmと厳しく
なり、その後も60g/km以下を見据えた強化策が導入される見通しである。
そのような背景から、全世界的にエコカーである電動車の開発が活発になり、
特にドイツ勢の台頭により競争が激化しつつある。そこに適用される電池もリチ
ウムイオン電池を中心に、グローバル競争の真っただ中にある。さらには、部
材開発でもビジネスに勢いがあり、今後の各社戦略に注目が集まる。今後の
革新電池研究も全世界的な動きが活発で、実用化にも期待がかかる。しかし、
実用にまで至るかどうかについての課題も少なからずある。
一方、開発から事業化に至る段階で、技術経営的判断の誤りで大きな失敗事
例もある。いかに洞察し、的確な技術経営をリードできるかで企業の発展性が
支配される。ビジネス戦略、技術開発、技術経営と言う視点での講義としたい。
講師 佐藤 登 様
名古屋大学 未来社会創造機構 客員教授
エスペック(株) 上席顧問
13:30 ~17:00
❐産業機械分野における I o T
コマツ流 “ものづくりのつながる化”
世界各地で工場のスマート化に向けた動きが活発になり、ドイツのIndustry4.0や、米国のIndustrial Internetなどが注目されている。コマツでは、建設機械用の遠隔監視システムとして『KOMTRAX』 を運用し、お客様の現場(市場情報)と『つながる』ことで、顧客の生産性向上に役立つサービスを提供している。
くわえて、新たな生産改革の活動として、『KOM-MICS』と名付けた生産用『つながる』システムの構築を実施中である。
グローバルの全工場に加え、サプライヤ(みどり会)の生産設備を独自開発のコントローラ
を介してネットワークにつなぎ、加工の工程改善と、生産情報の可視化を行うことで、
品質と生産性の向上を目指す。溶接や、機械加工での事例を通して、コマツ
流 “つながる工場”の考え方について紹介する。
講師 栗山 和也 様
株式会社小松製作所 執行役員 生産本部
生産技術開発センタ所長
名古屋大学 未来社会創造機構 客員教授
❐自由研究
8月31日(木)
09:00~12:30
❐次世代情報通信技術をイノベーションで実現する
グローバルな企業文化と研究開発活動
インターネットとスマートフォンの世界的な急拡大を背景に、個人向けサービス事業はこれら情報通信技術(ICT)をてこに、1990年台以降変革してきている。今後、この動きは企業向けなどB2B事業に拡大していくことは、必然の流れとみられている。この時に活用される技術を包括的に捉えてIoTやIndustrie 4.0と表現されている。Huaweiは2000年以降のグローバル戦略により、継続的な成長を続けており、現在、世界170の国と地域で事業を展開している。途上国を含め、世界中のお客様にICTによる利便性を提供するために、最先端技術の研究開発を行っており、研究開発センターを世界に30ヶ所以上展開している。日本研究所は2011年に設立され、日本のものづくり企業の高い技術をHuawei製品に適用するための研究開発活動を行っている。この具体的な活動内容や活動方針について紹介し、次世代ICTについて議論する。変化を遂げる渦中にある企業は、いかにして、変化への先陣を切るかが求められる。自社の視点を離れ、顧客視点でソリューションを再定義するとか、自社が構成していたアーキテクチャを再構成して、新しい概念を創り自社のポジションを最適化できるか否かを問われているともいうことができる。この時、自社の経営資源が有効である場合もあれば、反対にその強みを否定しなければ事業の改革に成功できない場合もある。先導的な変革への取り組みを考察・論議する。
講師 坂本 仁 様
JCTM理事
華為(ファーウェイ)技術日本株式会社 横浜研究所
チーフサーマルエキスパート
13:30~17:00
❐産業変革におけるサイバーセキュリティの重要性
従来、石油、自動車、金融に関する企業・政府活動が世界を牽引していたが、インターネットの急速な進歩、普及により、情報に関する企業・政府活動が世界を牽引する状況に変革した。もっとも先端的で成功を収めている。Amazon,Google,Apple,MSやシェアリングエコノミーの新興企業であるuber,airbnbなどは、サイバーセキュリティの重要性を認識し、情報の正当性担保、利用者の確実認証を追及する事に莫大な投資を行う事で成功を収めている。
また、各国政府は、国家の安全と防衛の観点でサイバーセキュリティを最重要項目として専門組織や法律、規制を継続的に拡充している。このような状況を事故、テロ、各国の戦略、制度などの事例を踏まえて説明し、今後の日本の対応、経営における対応について提言し、サイバーセキュリティの重要性の共有を図りたい。
講師 坂本 仁 様
JCTM理事
華為(ファーウェイ)技術日本株式会社 横浜研究所
チーフサーマルエキスパート
9月 1日(金)
09:00~12:30
❐“ゆるやかな標準”でつながる
日本版インダストリー4.0への挑戦
~事業の弱みを消し強みを増す知財戦略の要諦〜
インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)は、 デジタル化社会に
対応した次世代のつながる工場を、企業や業界の枠を超えて実現するための
組織である。
近年インダストリー4.0やIoTなど独米発信の製造業における取り組みが世界を
席巻しているが、IVIでは日本のものづくりの強みを「つながる工場」と「ゆるや
かな標準」をキーコンセプトとして再構成し、トップダウンのIT化では見逃され
がちな現場の創意工夫によるカイゼンや中小企業間連携によるきめ細やかな
モノづくりとITの融合をはかることを目指している。
IVIの特徴である多数企業参加によるオープン・イノベーション型の”業務シナ
リオ”作成への取り組みやIVIプラットフォームなどに言及し、その後のIVI会員
および聴講者も含めた議論につなげるものである。
講師
渡部 裕二 様 一般財団法人 I V I
(インダストリアルバリューチェーンイニシァティブ) 事務局長
関 行秀 様 日本電気株式会社
第一製造業ソリューション事業部バリュークリエイション部部長
鍋野敬一郎 様 株式会社フロンティアワン 代表取締役
福本 勲 様 東芝デジタルソリューションズ株式会社インダストリア
ルソリューション事業部
デジタルトランスフォーメーション推進部 参事
13:30 ~16:30
❐JCTM ミニ シンポジウム
Industrie4.0に対応する産業界の取組みと企業のあり方
本MOT研究会でIndustrie4.0を主題にした「技術経営」の講座を開始して3年
を経過している。企業でCTOであったJCTM理事の方々も継続的に研究会に参
加いただいており、本講座を含めて第4次産業革命での企業サイドの課題を
整理し、今後のあるべき企業の姿と施策を参加者といっしょに課題を共有して
論議する。
第14回MOT研究会 参加者 JCTM 役員 他
❐修了式 ・閉講 (17:00)
(注記) 上記プログラムは課題提起の概要、およびテーマ・内容を
予告なく変更することがありますのでご了承願います。