技術立脚型経営を考える プログラム
『産業革命は起こるのか? その時企業は・・・・』
◆2015年8月 プログラム設計における主題テーマの概説
特に2015年8月に実施するMOT研究会では、新たな産業革命が誕生するのか否かという課題に企業も政治も大きな関心を寄せている。欧米や我が国ではIT産業とハード産業との融合領域の産業システム的変革に新たな事業機会の創造に挑戦している。しかし、その実像は国や企業によって実質的な産業革命の姿は異なっているように見受けられる。従って現存する多様な挑戦の全貌を捕え、新産業への変革への解析を通じて、企業ごとに取り組むことを検討することが期待される。
特に、我が国ではアベノミクスの第3の矢、つまり成長戦略の具体的内容を描くことを産官学が挙って挑戦している。その観点から見た場合、今回の討議課題は「民間投資を喚起する成長戦略」をこの種の産業改革の視点から検討するという側面を扱っているという事も出来る。
「経済の好循環を一過性のものに終わらせず、好循環を力強く回転させていくために、イノベーションへの挑戦や新規事業の開拓など、経営者の具体的な行動が不可欠で、(一部略)その行動が伴わなければ、真の成長軌道には乗り得ない。」
(経済産業省、日本の「稼ぐ力」創出研究会 とりまとめ(案)より抽出校正した)
その意味で、本MOT研究会の主題は、欧米日で進行している産業革命へITとハードの両産業の融合という視点で検討するという側面がある。
◆第10回 MOTセミナープログラム概要
8月25日(火) 10:00-12;30
オリエンテーション 『技術経営論の意義』
技術は経営に於いて多様性がある。つまり事業の基盤を支える“経営資源”でもあり、技術を核として事業プラットフォームを形成し対価を得るという意味で“製品”でもある。また技術間・事業間の競争が繰り広げられている状況では、標準化のためにオープン性を求められる場合があるが、一方では製品の差別化を担保するためクローズド性が要求される。その観点からは多元性を持っているとも言える。技術が持つ多様性と多元性は、技術を事業的視点でマネージすることに柔軟な発想を求めている。MOT講座で検討してきた知見を整理し講座の意義を提示したい。
許斐 義信 技術立脚型経営研究会理事長
元慶應義塾大学大学院経営管理研究科 教授
13:30-17:00 『シーメンスとABB』
技術立脚型企業の成長戦略の実現性は重要な経営課題となっている。それには技術を基盤とする事業構造の変革・成長市場と見做される新興国の経済や市場との適応力・つまり事業モデルの再構築・先進国と新興国との事業連携など多様な技術経営の融合の妙が必要である。特に競争戦略の確立は避けられない課題でもある。欧州大陸企業シーメンスとABBとを事例に、我が国の産業競争力強化法の適応も視野に入れて戦略の評価に挑戦したい。
許斐 義信 技術立脚型経営研究会理事長
元慶應義塾大学大学院経営管理研究科 教授
18:00-20:00 懇親会
自己紹介・MOT研究会参加の抱負 等
8月26日(水)
09:00-12:30
『Industrie 4.0で産業と社会の活性化をはかるドイツNRW州』
先端生産技術とICTが融合した第4次生産革命“Industrie 4.0“の波が押し寄せています。ドイツ発のこの概念は、ドイツ政府の科学技術イノベーション基本計画「ハイテク戦略2020」に盛り込まれ、以後、2011年より官民をあげて取り組んでおり、日本の産業界でも大きく注目され始めました。 ドイツは日本と同様に、モノづくりを得意とし、高い生産技術に立脚した経済力を保持してきました。この先端生産技術に、デジタル・ICT技術を取り込むことで、例えば個別化された製品が、小ロットあるいは、たったひとつでも大量生産時と変わらぬコストで提供できるのです。このような生産現場の新たな局面を受け、ドイツ政府はIndustrie 4.0を如何に戦略的に産業活性化の機動力として取り込むべきかを、いくつかのプロジェクトを立ち上げ、検証しています。そのひとつが、ドイツNRW州の東部で進むプロジェクト「It‘s OWL」です。同プロジェクトは、「考える工場」をテーマに連邦政府から4千万ユーロの助成を受け、5年間に及ぶ研究を2012年にスタートさせました。
今般の講演では、このプロジェクトを紹介するとともに、日本とドイツのIndustrie4.0での相互協力の可能性を探りたいと考えています。
ゲオルグ・K・ロエル
株式会社エヌ・アール・ダブリュージャパン 代表取締役社長
13;30-17:00
『IoT時代を見据えたものづくりイノベーションへの挑戦』
あらゆる機器がインターネットにつながる「モノのインターネット(IoT)」を活用した取り組みが本格化している。IoTをめぐっては、ドイツが第4次産業革命と称し「インダストリー4.0」を官民挙げて進めたり、米国の企業コンソーシアム(IIC)などが国際標準化づくりなどで先行している。日本も成長戦略のひとつにIoTの活用を上げ、ロボット革命会議などを
通じて、製造現場の生産性向上や新たな価値創出を支援する取組みに動き出している。
このような環境の中、富士通では開発現場から製造現場、保守・サービスに至る広範囲でのものづくり革新活動に取り組んでいる。
本講座では、富士通に於ける最新の開発環境とその取組み、スマートなものづくりの実現に向け、IoTやAI、ロボット自律化、などを通じて、ものづくりの高度化に挑戦し続ける富士通の取組みを紹介する。またIoTの分野では、あらゆる業界の連携が欠かせない。個々のテクノロジ、ものづくり技術では決して負けない日本のものづくりではあるが、全体のシステム統合、業界での標準化、等となると欧米勢に先行を許している。これらの領域においても産官学の連携も含め、欧米勢を凌駕するため方向性について議論する。
宮澤 秋彦 富士通アドバンストテクノロジ株式会社 代表取締役社長
8月27日(木)
09:00- 事業所見学
三菱化学株式会社 KAITEKI SQUARE(千代田区丸の内1-1-1)
基盤事業でも顧客や市場との接点の再構成から競争優位性の強化に挑戦する事例を現地での見学と討議を経て、如何にその関係の再定義から成長戦略へ繋げるか検討する。
真鍋 彰宏 三菱化学株式会社 機能化学本部 植物工場事業推進室 グループマネージャー
14:00-17:30 産業クラスター ITと自動車
技術革新的新製品を産業クラスターの中で実現できるか。その在り様は産業構造面での変革を伴う場合が多い。②で記載したマクロ的変化も視野に、具体的な革新への視点と条件とを検討する。標準化やプラットホーム化など技術経営に於ける基本的要素の重要性をも加えて検討したい。
1、『産業クラスター ITと新事業創出』
低迷する国際競争力の背景や産業を取り巻く変化について簡単に触れ、市場からの圧力、ヒエラルキー・官僚制の圧力(成果主義等)とクラスター・ネットワーク(あるいはコミュニティ)について考える。各地で展開されてい
る中小企業間連携への取組み(京都試作ネット、ゼネラルプロダクション、金属熱処理ソリューション、加賀産業、NCネットワーク等)を紹介する。
自動車をはじめとする機械加工産業が集積する東海地域において、ヒエラルキー的な産業組織から水平・自律的な産業組織へ、範囲の経済への重点移動について考える。IoT/E(Industrie 4.0)への取組みについては1995年頃スタートしたAPSOM(PSLX)や最近のIVIにも触れる。
経営分野においては、コアコンピタンス経営、ダイナミック・ケイパビリティ、オープン・イノベーション等の議論が展開されてきた。イノベーション戦略の本質は不確実性の下での意思決定であり、結果そのものよりそれを生み
出すプロセスの合理性が重要。
企業組織はExploitation(深化・活用)と比較すれば、Exploration(探索)は不確実性が高く時間を要するためあまり注意を払われない傾向がある(March 1991)。知財戦略とアウトリーチ、事例としてプロダクトイノベーション協会(PIA)が開発した科学技術創発システム、SNAPについて考える。デンソーにおける新事業創出に関する様々な取り組みを紹介する。
小竹 暢隆 名古屋工業大学大学院 産業戦略工学専攻 教授
2、『企業の事例 株式会社デンソーにおける新事業創出の取り組み』
沼澤 成男 株式会社デンソー 技術企画部 担当部長
◆グループ討議・全体討議 など ~21:00
8月28日(金)
09:00-12:30 『情報テクノロジーにおける新しい潮流』
現在、コンピューターシステムやITの分野で、新たに大きな変革が起こっています。ビッグデータを中心に、クラウド、モバイル、ソーシャル、物のインターネットIoT(Internet of Things)、コグニティブ・コンピュー
ティングといった新しい分野が同時に立ち上がり、企業のITシステムやビジネスに大きな影響を与えています。
まず、データは、新しい天然資源とも呼ばれ、データの量や種類は爆発的に増えていますし、データの生成スピードも格段に早くなっています。大量のデータから、有益なデータを取り出し、情報や知識として構成することが、益々、重要になっています。ビッグデータに加えて、知識の獲得や自ら学習するコグニティブ・コンピューティングも大きく注目されています。2011年に米国で50年以上続くクイズ番組で歴代チャンピオンと対戦した後、医療、保険、教育といった分野で、実際に使われ始めました。さらに、製品などの物とのITの融合は、IoTとしてビジネスや産業に新しい変革を起こしています。これらのITの新たな潮流について、具体事例を使って議論を進めていきます。また、この新たな動きをリードするIBMの研究マネージメントシステムやテクノロジー洞察プログラムのGTO(Global Technology Outlook)なども紹介します。
久世 和資 日本アイ・ビー・エム株式会社 研究開発担当 執行役員
13:30-17:00 『新規事業創造に関する一考察』
富士フイルムの歴史を3つのフェーズに分割し,「新規事業創造」を梃に成長した富士フイルムから新規事業創造に繋がるヒントの抽出」を試みる。
・第1フェーズ:1950年〜1965まで
・第2フェーズ:1965年〜2000年まで
・第3フェーズ:2000年〜現在
新たな視点が浮き彫りになることを期待して,抽出したヒントの考察に際しては1970年以降の自分自身の体験も勘案する。言うまでもなく創業以降,富士フイルムは銀塩感光材料分野において着実に事業を拡大してきた。これと並行して富士フイルムは新規事業創生へのチャレンジを継続してきた。
第1フェーズでは富士フイルムを支える柱となったゼログラフィー技術をベースとするコピー機事業/感光性樹脂技術をベースとする印刷材料事業etcが創造された。
第2フェーズで誕生した光学フィルム技術をベースとする視野角拡大フィルム事業は富士フイルムの成長に貢献した。
第3フェーズでは富士フイルムが保有する基盤技術をベースに化粧品事業や医薬品事業を立ち上げた。
まず「”日本産業の蘇生”が極めて難度の高い課題である」および「更なる飛躍に繋がるチャレンジの目標を設定には”今の常識に囚われない”&”今の枠から踏み出す”が必要」という認識を共有したい。次に「”技術”と”人材”etcの切り口より”グループ討議も活用した現在に活かせるヒントの探求”」を実施する。
池上 眞平 技術立脚型経営研究会 理事
元富士フイルム株式会社 取締役 常務執行役員 R&D統括本部長
8月29日(土)
9:00-12:30
『日本の半導体産業の衰退と製造装置産業の変遷からくみ取れること』
1980年代に世界を制した日本の半導体産業も一部の例外を除き、すっかり衰退した。本講義では半導体およびその産業の特徴を紹介し、なぜ日本では衰退したかを述べる。さらに、今後の半導体の使われ方、産業構造の展望にも触れる。
一方、半導体を製造する装置産業も大きな転機にある。日本は相変わらず強いが、その強みと、一方では弱みも説明し、今後の変化についても述べる。
1950 年に始まった半導体産業も(装置産業は70年代から成長)、すでに60年以上の歴史を持ち、産業として次第に変わっていくことが予想される。産業サイクルの一つのモデルとして恰好な題材と思える。
渡辺 徹 E-VIS 代表
元アプライド マテリアルズ ジャパン株式会社 代表取締役社長
兼 アプライド マテリアルズ社 バイスプレジデント
13:00- 修了証 授与